ミュージカル映画史

ミュージカル映画史3〜映画産業における衣装部門の成立〜

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ミュージカル映画史3〜映画産業における衣装部門の成立〜

 

当時のハリウッドの大手映画会社(MGM、パラマウント、20世紀フォックス、ワーナー・ブラザーズ、RKO の5大メジャー映画会社)は現代と違い、スタジオシステムという製作方式をとっていた。映画会社は製作から配給、興行までコントロールしていたのだが、これは長編映画を安価に大量生産するためのもので、俳優や技術スタッフはそれぞれの映画会社に所属していた(現代で言うところの吉本クリエイティブエージェンシー的環境。彼らは芸人と言う商品を所有し、製作部門を設けて技術屋を雇い、自分たちでコンテンツの配信をしている恐ろしい企業なのだ)。そして、それぞれの映画会社には衣装部門という部署が設けられていた(吉本クリエイティブエージェンシーには無いであろう!)。

 

さて早速脱線しそう、というか既に脱線しているのだが、特に制限もなく自由に書いている身なので、思う存分横道にそれることを許容していただき、この衣装部門成立についても少しだけ打ち込見たいと思う。

 

映画がなんで西海岸のハリウッドになんかに移ったのか。日本で言えば、都心から沖縄に拠点を移すみたいなことで、それはもう相当なこと。で、映画が西海岸であるハリウッドの地を選んだのには、いくつか理由が存在している。機材や興行にパテント料を課したパテ社の独占的支配から逃れるためという経済的な理由と、雨の降らない広大な土地で、美しい自然光のもとで撮影できるという技術的な理由の二つ。雨が降れば撮影が順調に進まないことは容易に想像できるし、大量生産で効率よく製作したい会社にとっては雨は大問題だった。ただいくつかの問題も発生してしまって、ブロードウェイなどが盛んだったNYには多くの優秀な貸衣装屋と、素早く仕立てをしてくれるアパレル工場があったのだけれど、ハリウッドのあるカリフォルニアにはそういったファッション産業はなかった。そこで歴史ものや西部劇などの特別なコスチュームを貸し出す産業がまずできる。「ザ・ウェスタン・コスチューム・カンパニー」という会社が有名で、「国民の創生」なんかはこの会社が衣装を製作している。これで問題は解決したように思われたのだが、そうは問屋が卸さない。そうやって一つ一つ前に進むことで技術は進歩していくのだという構造主義批判はとりあえず隅に置いといて、とにかく高かった。レンタル代が。とてつもなく高い。そうだ。だったらスタジオに衣装部門作っちゃえ。そうやってできたのが衣装部門。バーゲン商品なんかを買ってきて、それをリメイクして映画に使うなんてことを当時はしていた。それをいち早く取り入れたのがグリフィスだったというのも一つのトリビア。「イントレランス」みたいな壮大な歴史もの映画をまだ出来立ての自社部門でやってしまったのだから、それはてんやわんやだっただろうと想像に堅い。

ちょっと道草がすぎるので大分飛ばそうと思う。セシル・B・デミルや、淀川さんお気に入り衣装が出てくる「サロメ」なんかのお話はぐっとこらえながら打ち込みを再開していきたいと思う。

 

このようにしてそれぞれの会社には衣装部門というコスチューム専門分野が登場。20年代から30年代にかけては、MGMのエイドリアン、パラマウントのバントン、ワーナーのオリー・ケリーなどの活躍で衣装はハリウッド黄金期を支える重要なポジションになっていく。といっても、映画製作部門の中では下の方。製作費を削れと言われればまず第一に衣装部門の経費が削られるという状況(エイドリアンなんかはそれに反抗できた唯一の人ではないでしょうか)。

 

大分横道に逸れたが、まずここで言いたかったことは当時のハリウッドスタジオ・システムが衣装史やミュージカル映画史、強いては映画史にもたらした恩恵とは、この優秀な映画専門のデザイナーたちを生み出したということ。当時の映画の最重要任務がなんだか皆さん知っているでしょうか?それは、女優をいかに綺麗に見せるかということ。とにかく女優(スター)をいかに美しくスクリーン上に表現できるか。これが大事だった。だから今見ても、マレーネ・ディートリッヒにバックから当てられた照明が暴露した美しい髪の輪郭線や、柔らかな光に包まれることで神話化したその官能美は古典的ハリウッドという名のもとに時代遅れになることなく、脈々と良質な現代映画にも引き継がれている(個人的に、写真界でその形式美に敏感であったのは篠山紀信ただ一人だと思っている。ときにそれが古臭い形式とかいう偉そうで間違った批評を生んでいるのだが、そういった人たちは映画を全然見てない人たちだし、まーそれはそれで良いのだけれど、あれを古臭いと言われてしまうと少し悲しい)。そして当時のデザイナーたちは、そのライティングや女優の特徴にまで気を払って衣装を製作していた。

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