1940年代 映画について

「私を野球に連れてって」(1949)

更新日:

「私を野球に連れてって」(1949)

監督

バスビー・バークレー

キャスト

ジーン・ケリー(エディ・オブライアン)、フランク・シナトラ(デニス・ライアン)、ジュールス・マンシン(ナットナット・ゴールドバーグ)、エスター・ウィリアムズ(K・Cヒギンス)、ベティ・ギャレット(シャーリー・デルウイン)

 

先発・中継ぎ・抑え、敗戦処理に勝ちパターン。分業化がますます明確となった現代野球における9イニングという構造の捉え方はドラスティックに変容した。野村克也よ、あなたはどれだけ先を走っていたのだろうか。そんな嫉視とノスタルジーに浸りながら僕が考えていたのは、変容した9イニングの意味に対して、セブンス・イニング・ストレッチで流れる「Take Me Out to the Ball Game」はしっかりと機能しているのだろうかということだった。

 

(タン・タタタタ・タン・タン〜)という誰もが聞いたことのある、文字通り「夢の球場」の映像をバックに流れる「Take Me Out to the Ball Game(私を野球に連れてって)」が主題曲のこの映画は、同年に撮られる「踊る大紐育」(1948)とほぼ同じキャストで撮影された作品。つまりフランク・シナトラとジーン・ケリーのコンビが共演した作品。

 

架空のプロ野球チーム「ウルウズ」のプレイヤー兼舞台芸人であるエディ(ジーン・ケリー)とデニス(フランク・シナトラ)のもとに、敏腕女性オーナーとしてK・Cヒギンス(エスター・ウィリアムズ)がやってくる。惹かれ合うエディとヒギンス。そんな中、ライバルチームの熱狂的なファンがギャングを雇ってデニスの邪魔を計略し、ドタバタ劇が繰り広げられる。

 

エスター・ウィリアムズが出ているのに水中レビューシーンがないとか(詳しくはウィキペディアとどうぞ)、ユニフォームがダサいとか、あまりパッとしないストーリーとか、色々あるけれども、意外にも野球のシーンは上手く撮られているし、「自分の恋愛感情の有無を濃厚な接吻によって確かめる」というキスシーンを盛り込むための荒技のような演出の妙なエロさもあるし、なんといってもヘレン・ローズの衣装が良い。この翌年に公開された「百万$の人魚」(1950)でエスターのために仕立てた数々の水着は素晴らしかっただけに、ジーン・ケリーの嫉妬心によってこの映画から排除された水中レビューシーンは永遠にこの映画の欠陥として刻印され続けてしまうだろう。

何度も言及しているように、映画衣装は常に二重構造の中にある。それは「時代背景に忠実なデザインと、現代的な視点からのデザイン」という二重文節の中で複雑な関係性を維持している。このヘレン・ローズの凄いところは、時代背景に忠実なデザインという文節を一切無視するとことにある。無視をするというより、文節に区切れない一つの固有名詞的文章に仕立て上げているといった方が良いだろうか。そしてそれを可能にしているのは、映画に映える見事な生地たちである。この映画でも、ベティ・ギャレットの着るドレスには釘付けになってしまった。

 

そんな映画の中で、「Take Me Out to the Ball Game」が心地よく聞こえるのが、そもそもこの曲がセブンス・イニング・ストレッチのためにではなく、ドリーム・ベースボールの産物だったからなのではないかと改めて感じている。映画も野球も、夢を売る「商売」なのだから。

yuyasaku-blog-pc

yuyasaku-blog-pc

-1940年代, 映画について

Copyright© 寂寥と官能の図像史 , 2024 All Rights Reserved Powered by STINGER.