PENHALIGON’S「THE COVETED DUCHESS ROSE」
ノート : マンダリンオレンジ、ローズ、ムスキーウッド
調香師 : クリストフ・レイノー
私が匂いの森を彷徨った時、ある一つの匂いを頼りにその森に立ち向かっている。そのキーノートは、ローズの香りである。想像上の人物を香りで作り上げ、物語に仕立て上げたペンハリガンのポートレイトシリーズのデュシェス・ローズ。私的趣向を繰り出すことへの抵抗を覚えながらも、まず伝えたいことは、私がこのフレグランスで香るローズの匂いが好きだということだ。
トップ
それは、トップノートで香る鮮やかなローズからして完璧なのだ。重くなく、それでいて薄すぎないこの素晴らしいトップノートは、素材の量による強弱ではなく、マンダリンやローズのコラージュによる輪郭の崩壊と再発見の末に訪れる絶妙なバランスの上に成り立っている。
ミドル
ミドルノートに移り、その複雑で透明な構造(モネの睡蓮に描かれた水面。あるいはリヒター的シャイン)に、ムスキーウッドの柔らかさが加わる。公爵夫人と名付けられたこのフレグランスの最大の魅力は、徹底的に空想の中でしか生きることのできない階級の者たちが、空想の中にしか存在し得ない快楽に耽ることでしか生まれることのない香りを、その艶かしい柔らかさで表現してしまったことかもしれない。
ラスト
ラストノートでもその艶かしい柔らかさに包まれた情熱の薔薇の香りは消えることなく、我々を置いてけぼりにして公爵夫人は姿を消してしまう。
ノスタルジックの中にユニークさのこもったボトルが私たちに思い起こさせるのは、かつては薬剤師が香水を扱っていたという歴史である。そんなボトルが並ぶお店の中で私は、時間をすら曖昧にしながら彷徨っていたのだ。