YVES SAINT LAURENT「BLACK OPIUM」
トップノート : フリージア、ベルガモット
ミドルノート : ゴールデンガーデニア、フローラルソーラー、オレンジブロッサム
ラストノート : コーヒーアコード、ミネラルアコード、ホワイトムスク
もし、許されないほどに贅沢をしていいのなら、部屋いっぱいに詰め込まれた純白のクリームの中に埋もれてみたいと思ったことがある。それは、幼心に強がったマリーアントワネットへの復讐だったのかもしれない。
トップ
ブラックオピウムの香りは、トップノートで香るペアーの甘さがこの部屋いっぱいの柔らかなクリームの中に包まれている。しかし、そこにアントワネットのような色気はない。いや、むしろ色気を隠そうとせず、それが常態となって香ることで奇妙に色気を失っている。しかし、これは決してこのフレグランスがダメだと言っているのではない。そこにはまるで、ビバップ後に迎えたモダンジャズを思わせるような複雑さが隠れている。
ミドル
トップノートで香った甘さは、ミドルノートにも引き継がれる。そこには滑らかなグラデーションがあるではなく、混沌が同じ純度で流れているだけだ。
ラスト
フローラルを香調とし、わずかに香るコーヒーとの相性が絶妙に良く、喫茶店に置かれた一輪の花ではなく、華道家の自宅で飲まれたコーヒーの残り香くらいに香る苦味にすら届かない滲みが、ラストノートまで隠れながら私たちを魅了する。
闇の中の阿片。私はなぜか、夜の帝王たるマイルスデイビスを思わずにはいられない。