香水について

PRADA「Marienbad」

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PRADA「Marienbad」

ノート : 沈香、ヴァニラ、インセンス、アンバーウッド

 

イリュージョンには煙がつきものだ。「煙に巻く」という言葉が「信じがたいことを言って相手の判断を狂わせる」という意味を持つように、イリュージョンと煙はその機能面から非常に相性が良い。想像を超えるような天災を目の当たりにした人間が、それを乗り越えるために生み出したイリュージョンが神話であるし、落語という芸術を語った立川談志が、大好きなミュージカル映画「雨に唄えば」を引き合いに出して語ったのはイリュージョン論であった。プラダのOlfactoriesシリーズのテーマは、幻想夢のコラージュである。つまりこれは、イリュージョンのための香水なのだ。

 

トップ

トップノート、厳かなバニラやレザーの匂いが私たちに見せてくれるのは、いかにも宗教的な儀式を思わせる景色だ。そこは四方を白幕で覆われた部屋の中に二本の松明が点る空間で、今まさに煙が立ち上がってきてばかりなのだ。

ミドル

ミドルに入り、インセンスの香りが姿を見せ始めると、儀式はいよいよその猛威を遺憾なく振るい始める。切れ目のない意識の連続の中で、いつのまにか儀式を眺めていたはずの自分が断裂され、儀式の中に閉じ込められた私がいるのは、辺りを覆っていた煙が去った後の何者かのユートピアである。

ラスト

ラストノートは意外なほど静かに終わる。そこがどこだかははっきりとしないのだが、確実に儀式が終わったことだけは理解でき、残された呪具を呆然と眺めることしかできない自分を嬉々として眺めている自分がいる。

 

フレグランスイメージや、公式サイト上のムービーもしっかりと作り込まれており、明確な意図を持ったこのシリーズ。パケ買いという言葉があるが、思わずイメ買いしたくなる作品だ。

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