香水について

Guerlain「Vol de Nuit」

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Guerlain「Vol de Nuit」

トップノート : ベルガモット、ガルバナム、ペティグレン

ミドルノート : ジャスミン、ナルシス、スパイス

ラストノート : ウッド、アイリス、バニラ、アンバーノート、アーシーフォレストノート

 

 

夜間飛行という言葉の響きの美しさですでにこのフレグランスの大半は成功してしまっているのだが、それゆえに肥大した芳醇なイメージと見事にマリアージュすることができる香りなのかがこのフレグランスのキモだと言って良い。アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの小説「夜間飛行(Vol de Nuit)」に捧げられたオマージュ作品であるこのフレグランスは、主人公のリヴィエールが対面した(サン=テグジュペリ自身が体験した)郵便飛行士が可能性として孕んでいる「命の犠牲」に対する信念とモードの類似性を密かに暴いたフレグランスでもある。

 

トップ

トップで香るのは、ベルガモットや相性の良いガルバナムなのだが、なぜか中心がつかめない。香り立つ匂いは確かにあるのだが、どこか判断に困っている自分がいる。この曖昧さがモードだと言っていいのだろうか。こんなに不安を覚えたフレグランスは今までにない。

ミドル

ミドルに入ると、不安定だった香りが突然安定感を持ち始める。ジャスミンやウッディなスパイスがその安定感を運んできたのだが、この操縦桿を離しても大丈夫な期間は、油断という名の危険な香りが最も愛する時間帯なのだ。慎重になって深く吸い込んでみると、奥に潜んでいたゲラン特有のあの艶かしい香りが一気に襲ってくる。それを吸ってしまったものは、めまいという優しい言葉では足りないほどの偏頭痛を覚えるはずだ。だからこそ、このフレグランスの最も枢要な要素は距離なのだ。

ラスト

ラストノート、そこにはトップで覚えた不安はなくなっている。オリエンタルな空間へと着陸したこの飛行機から降りた時、私たちはまずこう言わずにはいられない。「やっぱり、ゲランの匂いだった」

 

危険を承知で、香水をある一つの物語としてアナライズするならば、もちろんそこにはセックスを見たいというアドレッサンスな夢と、物語の結末を知りたいというロマネスクな夢という観測者の立場と欲望が形成される。ゲランの香水の一番の楽しみ方は、後者の欲望を持ちながら(垂直に大騒ぎしたいという欲望)、その断面に存在する不安を楽しむことなのではないだろうか。

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