Serge Lutens「L’orpheline」
トップノート : シダーウッド、フゼアアコード
ミドルノート : クリマリン
ラストノート : アンバーグリス、パチョリ、カシミアムスク
調香師 : クリストファー・シェルドレイク
なぜ、こんなにも、素直じゃなく、くすんで、下を向き、鋭く睨んで、躁鬱で、孤独で、知的で、弱いのか。
「夜」や「月」がセルジュルタンスの表現し続けてきたものなのだとしたら、そこはパリの夜なのであって、街路は当然のように濡れていなくてはならない。なのに、このフレグランスはその街路を煙に巻こうとしている。孤児と名付けられたこのフレグランスは、どこでもない夜に立ちあらわれる孤独な、いや、そんな夜を作り出してしまう香りなのかもしれない。
トップ
トップで香るのは、シダーウッドやフゼアといったシプレー系の香りで、そこにはヒンヤリとした寒気が肌にまとわりつく朝の森の日陰で香る土の重量感があり、無菌室の中に漂う作られた清潔感がそれに加わることでどこか無機質な雰囲気を持っている。
ミドル
ミドルに入り、無菌室に入れられた朝の森にはスモークが漂い始める。スモーキーに香り出したこのフレグランスは、朝を無理矢理に夜へと変えてしまう。そう、ここはアメリカの夜なのだ。
ラスト
ラストノートはこの演じられた夜の結末にふさわしく、静かにその白煙を拡散させながら消えていき、そこには朝でも夜でもない不思議な風景を薄っすらと残していく。
正直、初めはこのフレグランスに嫌悪感を抱いた。無菌すぎるあまり(言葉として破滅しているが)、汚れた己の体が自然と拒否反応を起こしたのだ。それは、歯医者に行った時に感じる抵抗感に非常に近い。