Guerlain「Mitsouko」
トップノート : ベルガモット
ミドルノート : ローズ、ジャスミン、ピーチ
ラストノート : オークモス、ベチパー、シダーウッド、ブラックペッパー、シナモン、アンバーグリス
真実、由来、恋、女、そんなものは到底信じられるものではない。だから、今更MITSOUKOの由来を語る必要もない。それがたとえ商売戦略だったとしても。ゲランと聞いてイメージするあの重厚さ。それをイメージしてしまった途端に、もうすでに私たちはMITSOUKOに捉えられている。
トップ
トップノートで香るのは、柑橘系のベルガモット。なんとも軽いのだ。手ごわいと思っていた舞妓嬢が、話してみると身近に感じる。そんなワクワク感と共に、三島由紀夫の金閣寺の主人公が、本物の金閣寺に感じたあのもどかしさも襲ってくる。
ミドル
しかし、そのワクワクともどかしさは、ミドルノートになると一つの感情となってまとまってしまう。いや、失った感情と言っていいかもしれない。それは、唖然である。そうなったらもうおしまいだ。MITSOUKOはやはり、手強かったのだ。軽かったベルガモットの柑橘系の匂いは影を潜め、ローズ、ジャスミン、ピーチといった甘さが、ゲラン特有の重さとなってやってくる。それは、ベースノートという根にはられたベチバーの香りが、感覚では捉えきれない程の微量だからなのか、視界には収まらない程壮大だからなのか煮え切らないままに、この香水の重低音となって鳴り響いている。我々は、木の根を見ることなどしてはいけないのだ。
ラスト
ラストノートでやってくるシプレーの匂いは、もう届かない所へといってしまったMITSOUKOを纏うことのできる幸福感を味わうことができる。
フランス語では「OU」は「ウ」になる。「OUI」は「ウィ」だ。だが私たちにはその余分な「O」が奇妙に響く。フランス人が感じた日本人女性という差異。日本画の本質が西洋画によっているのと同じく、ミツコの真実はMITSOUKOの中にしかないのかもしれない。