1930年代 映画について

「椿姫」(1936)

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「椿姫」(1936)

監督

ジョージ・キューカー

キャスト

グレタ・ガルボ(マルグリッド・ゴーディエ)、ロバート・テイラー(アルマン・デュバル)、ライオネル・バリモア(アルマンの父)、エリザベス・アラン(ニシェット)

 

女優が男に惚れる女の役を演じること。一見転覆したこの命題(女は男に惚れるものだという図式の再構築)だが、ガルボにとってこれほど難しいことはなかっただろう。だってガルボは足が太いから。だってガルボは声が太いから、、、

 

世界三大オペラの一つである椿姫のハリウッド版であり、1800年代中頃(原作は1848出版)のストーリーを1936年に映像化した作品であるため、そこには約100年以上のギャップがあり、必然的にコスチュームにおける差異が生まれる。要するに、100年以上のギャップがあると、映画に関わったものの誰一人としてその時代に生きていなのであり、そこには必然的に微妙なズレが生じるということだ。映画衣装は常に、忠実な再現と映画的な表現の二重構造の中にある。

 

舞台は19世紀中頃のパリ。当時のイブニングは、肩幅が徐々に狭まっていき、クリノリンによってスカートが裾に向かうにつれて拡がっていくスタイルが流行していた。まさに足が太いガルボにとってはうってつけの役ではないか。なんてったって足が隠せるんだから!とエイドリアンは思っただろうか。

「ガルボの衣装を担当できなかったことが一番の後悔」と、かのセシル・ビートンに言わせたガルボは、決してスタイルの良い女優ではなかったし、なぜかどんな衣装を纏っても女らしさが出ない女優でもある。この映画は、それをもろに露呈してしまったという点で、少し残念な映画になってしまった。

 

まず、衣擦れの音がどうしても量販店にあるレインコートの同士が擦れる音のように聞こえてしまう(これを上手く解決したのが、パラマウントのトラヴィス・バントンだった)。それはどうしてもオートクチュールが響かせる音には聞こえないのだ。

そして、ガルボに花はどうしても似合わない。彼女がここ一番で自分を光らせようとするとき、とりわけロバート・テイラーとの逢瀬の前に、初デートの前の女学生のごとくウキウキになりながら花飾りを髪やイブニングにつけるのだが、なんともそれが似合わない。

 

ガルボを目立たせるために、他の演者の衣装を抑え気味にしたと話すエイドリアンは確かに天才ではあるが、どうしてもこの映画でのガルボとの相性は良くない。とにかく、彼の表現が映画に負けてしまっているのだ。

「この役をやったことが、人生での一番の失敗」。そんなことをガルボに言わせるんだから、やっぱりこの映画は失敗しているのかもしれない。

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