1930年代 映画について

「上海特急」(1932)

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「上海特急」(1932)

監督

ジョセフ・フォン・スタンバーグ

キャスト

マレーネ・ディートリッヒ(上海リリー)、クライヴ・ブルック(ドナルド・ハーヴェイ)、アンナ・メイ・ウォン(フイ・フェイ)

 

スタンバーグには妻がいて、ディートリッヒはその妻を怒らせているわけだし、いうなら何作も共に仕事をしたスタンバーグとディートリッヒのコンビの佳境でもあったわけなのだから、ディートリッヒが「何の関係もありませんから」なんてことを、スタンバーグの返却を迫った妻に言い放ったとしても、やはり二人の関係は疑わざるおえないのだが、確かな証拠はどこにあるだろうかと血眼になって探しただろうスタンバーグの妻に教えてあげたかったことはただ一つ、ぜひこの映画を観てくださいということだ。

 

まず、上海リリーという名の娼婦を演じたディードリッヒのコスチュームが素晴らしく、娼婦を映画の中でしか生きることのでいない本物の娼婦へと昇華させている。黒いドレスに毛皮のコートを着ているのだが、モノクロにおける黒の美しさを完璧なまでに捉えたトラヴィス・バントンと、毛皮が風に揺られて柔らかに揺れる美しさをカメラに収めてしまったスタンバーグと、彼らと何度もコンビを組んできたディートリッヒの組み合わせなのだから間違いないと納得せざるおえない。

 

おそらくトラヴィス・バントンは、ディートリッヒ以外の役にはわざとくすんだ色(モノクロでは映えない色)のコスチュームをあてがっている(もしくはスタンバーグが)。それゆえにこの映画で一人輝きを放っているディートリッヒだが、それを隠そうとせず、惜しげもなくスタンバーグはディートリッヒに夢中になってカメラを向ける。走る汽車のデッキで風邪を受け、美しく揺れる毛皮と共になびくディートリッヒの髪の美しさ。フランス語も話させちゃって、たまには派手は衣装も着せてみちゃったりして、もう、スタンバーグのディートリッヒ愛が止まらないのだ。だけにこの映画の物語はどうでも良い。ただ、ディートリッヒを見れば良いのだ。現代で、ここまで女優に愛を抱きながらカメラを向けられる監督が何人いるだろうか。

と言いつつも、やはりスタンバーグの絶頂期でもあり、演出は素晴らしいものがある。特に、狭い路地をギリギリで通過する汽車を捉えたカメラ位置の完璧さは素晴らしい。時々に映し出される汽車のシーケンスは、この映画がただディートリッヒのためだけにある映画ではないことを堂々と見せ付けている。

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