「ダンシング・レディ」(1933)MGM
監督
ロバート・Z・レナード
キャスト
ジョーン・クロフォード(ジェニー・バーロウ)、クラーク・ゲーブル(パッチ・ギャラガー)、フランチョット・トーン(トッド・ニュートン)、メイ・ロブソン(ドリー)、フレッド・アステア(本人役)
世界初の全編トーキー作品である「ブロードウェイ・メロディ」(1929)の当たり以来、久しく冷たい風が吹いていたバックステージもののミュージカル映画。それは、ブロードウェイの優秀な人材がハリウッドに流れ着く前夜でもあった。
セルズニックのMGM移籍に伴って、RKO時代にフレッド・アステアが唯一出演したMGM作品で、アステアにとっての映画デビュー作でもある(情の混じったレンタル移籍的な出演で、この年にアステアはRKO製作の「空中レヴュー時代」(1933)にも出演している)。
「ストリップまがいのショーに出演する踊り子たちが、警察の取り締まりに遭う」というこの時代特有(大恐慌時代)のオープニングでスタートするこの映画は、捕まったジェニー・バーロウ(ジョーン・クロフォード)と、彼女に一目惚れして、罰金を肩代わりした富豪のトッド・ニュートン(フランチョット・トーン)と、ジェニーが押しかけた劇団の演出をしていたパッチ・ギャラガー(クラーク・ゲーブル)の三角関係を描いた作品。
アステアにとってハリウッドへ移籍してきて初の作品ともあり、撮影現場では常にMGMの広報担当者を心の拠り所にしていたというお茶目さと、初日に冒険することのリスクを重々承知し、「イタイ」奴にならないために指示をしっかりと聞いたせいで硬くなってしまっているアステアを見るだけでこの映画には十分価値がある。ちなみにジョーン・クロフォードのダンスははっきり言って上手くない。
この映画ではバックステージものの映画につきものの階段が出てくる。そのシーケンスでは、警察の取り締まりに焦った踊り子たちが右往左往しているのだが、カメラは執拗にその足元を執拗に映している。この作品はプレコード時代の作品で、まだ女性の露出に対しての規制が厳しくなく、冒頭からなかなか過激な衣装が登場している。このシーケンスが冒頭に置かれていることからも、階段のシーンで衣装を写さないカメラワークからも、この映画がいかにジョーン・クロフォード(または踊り子たち全員)の肌を美しく撮るかということにフォーカスしているのだということを宣言していることがわかる。
ジョーン・クロフォードとクラーク・ゲーブルとフランチョット・トーンという豪華スターを配して彼らの三角関係を描くも、現実の世界でも同じことが起きるという結末を起こしてしまい、ゴシップ好きには実にややこしくも食べがいのある映画でもある。