1960年代 映画について

「マイ・フェア・レディ」(1964)

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「マイ・フェア・レディ」(1964)

監督

ジョージ・キューカー

キャスト

オードリー・ヘップバーン(イライザ)、レックス・ハリソン(ヘンリー・ヒギンス)、スタンリー・ホロウェイ(アルフレッド・ドゥーリトル)、ウィルフリッド・ハイド=ホワイト(ヒュー・ピカリング)

 

1911年のイギリスが舞台のこの映画は、だからヴィクトリア朝の優雅なラインを引き継ぎつつフレンチテイストの入った(複製技術によるデザインの伝播)、バレエ・リュスやジャダ、アール・デコやフォール・エポック以前のエドワード朝のスタイルがとられているわけで、そうなれば衣装デザイナーはセシル・ビートン卿しかいないのだ。が、主演がオードリー・ヘップバーンである。もちろんこの映画の知名度や評価を知っているが、個人的にこの組み合わせを見ただけである種の寒気がした。「アカン」と心の中で叫ばれた関東人の関西弁は、いつか誰かのもとへと届く手紙なのだと信じて音にしないでおいたが、まー「アカン」と思ったのだ。

 

当然のごとくこの映画の衣装は素晴らしい。特に、この映画で唯一明確にしみったれたセットだとわかる貴族の社交場としての競馬場を馬が走るシーンは痛快だし、そこではじまる白と黒で統一されたドレスを拵えた貴族たちのダンスシーンも言うことはない。その集団的乱舞は、ダンサーたちの素晴らしさゆえに、オードリーの映画的な魅力を悠々と飛び越えていったが、それゆえにこの映画が駄作にならずに済んだのだとも言える。

 

さてこの映画はこの時代によく見られた成長型ミュージカル映画なのだが、「恋の手ほどき」(1958)で立派なクルティザンへと変貌を遂げたレスリー・キャロンが見せた魅力的な仕草が、この手のミュージカルを駆動させるコスチュームチェンジという技法を見事に堂々と成立させたように、この映画にもそんな素晴らしいシーケンスを期待して見たのだが、そんな仕草がオードリーにできるかといったら無理な話なわけで、かといって一発逆転の飛び道具すら持っていないので、コスチュームチェンジは結局オードリーの持つ「美」によって空転してしまったのだ。オードリーの美とは定着された「美」なのだ。言い換えれば、1秒間に24回死ぬ「美」といってもいい。

アカデミー賞の衣装デザイン賞を受賞しただけあって、次々に素晴らしい衣装が出てくるが、この空転した技法によって映画は乾ききってしまった。つまり、1秒間に24回死んだのである。映画はその死を隠蔽しなければならない。そして、映画は濡れていなければならない。それは単純なエロスと直結するからでもある。

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