「オー・ルーシー!」(2018)
監督
平柳敦子
キャスト
寺島しのぶ(節子/ルーシー)、南果歩(綾子)、忽那汐里(美花)、役所広司(小森/トム)、ジョシュ・ハートネット(ジョン)
ロサンゼルスと映画といえば、どこか怪しく鈍り、アンチヒーローが着崩したようなエロティシズムの漂う夜がある。
節子(寺島しのぶ)と綾子(南果歩)が、ジョン(ジョシュ・ハートネット)と美花(忽那汐里)を追って着いたロスは昼間で、そこにはロスの夜はどこにもない。それどころか、どこかどんよりと曇っている。カサヴェテスの撮ったロスの光はそこにはなく、東京の「どんより」がそのままそこに移されて/映されている。
そして、夜に節子が一人でロスの街をふらつくシーンに危険な香りがしないのだ。「どんより」と同じように、東京のいやらしい夜(危険を感じない)が移されて/映されてしまったのだろう。
だからこそ、寺島しのぶがずっと良い。あの温度の中で画面に居続ける彼女なら何時間でも見れると素直に思うほど良い。
東京でルーシーとなり、アメリカでは節子であり続けた(カツラを被らなかったというコスチューム的な意味で)彼女は、そのどちらにも偽り続けられるものを失い、メキシコへ逃げたいと言った美花のセリフをそのまま自分のものとしてジョンに吐き出した彼女の悲壮感が心を打つのは、日本とアメリカを横断しながらも変わらなかったあの温度感が、映画の形式として彼女に迫り続けたからではないかと思っている。
それにしても、役所広司が出てきた瞬間の妙な安心感はなんなのだろうか。