香水について

Serge Lutens「Clair de musc」

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Serge Lutens「Clair de musc」

 

 

トップノート : ベジタル・ムスク、ネロリ、ベルガモット、フローラル・ムスキー

ミドルノート : ローズ、ジャスミン、ムスク

ラストノート : トスカーナ産アイリス、マイソール産サンダルウッド、アンブレット・シード

 

 

「嗅覚は想像を生む知覚」だとジャン=ジャック・ルソーは言った。もっとも享楽的な感覚である嗅覚は、だからこそ人々をこんなにも誘惑し、嫌悪されるのかもしれない。匂いとは、イメージとの共鳴関係で成り立っている。一つの香りが次々にイメージと結びつくことで発生するこの雷鳴のような感覚こそが、香水のもつ最も重要な力だと思う。例えば、ある写真の中に映る人物Aが、自分の知っている人物Bに似ていたとしよう。その瞬間、この写真は自分のイメージを刺激し、この写真と自分のイメージは共鳴しあう。この共鳴が鳴り響く瞬間と名残こそが、至高の快楽なのではないだろうか。ニッチブランドであるセルジュルタンスのフレグランスは、どれもその強烈なブランドイメージと結びつけずにはいられない。そういった意味で、このブランドはすでに成功しているのだ。

 

トップ

トップノートで香るフローラル・ムスキーは、静かで薄い霧の中を思わせる。そして、妖しく頬に手をつく山口小夜子がイメージとしてこの香りと共鳴することで、妖艶に塗られた白い景色が浮かび上がってくる。

ミドル

ミドルに入り、ジャスミンやローズといった甘い香りが白く塗られた景色の上に薄い幕を張り、立ち現れた山口小夜子はますます不安定な像となっていく。色は濃くなっていくのだが、透明感は増したように見えるという錯覚を覚えさせるような香りだ。

ラスト

ラストに向かうにつれ、一枚一枚剥がれていくレイヤーと共に、セルジュルタンスが打ち出したイメージの女性たちは姿を消していく。そこに残るのは、彼女たちの残り香だけだ。

 

セルジュルタンスの香りを纏うのならば、私はセルジュルタンスの香りを纏っているのだとあえて宣言しても良いと思う。それは決して滑稽な行為なんかではなく、それを含めての香水の楽しみ方なのだから。

 

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