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FLORIS「1988 Mayfair」

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FLORIS「1988 Mayfair」

 

 

トップノート : ベルガモット、レモン、グレープフルーツ、カシス、グリーン、ガルバナム

ミドルノート : ジャスミン、ローズ、ローズマリー

ラストノート : ベチバー、サンダルウッド、ムスク、アンバー

 

 

構造主義は、時間経過と共にあるはずの、人類が確信して止まなかった「進歩の先の理想の世界」がないことを宣言した。表層で僕たちが戯れているのは、崩壊前夜の希望の中なのかもしれない。このフレグランスはFLORISのプライベートラインで、「ロンドンへのラブレター」と題して創造された3つの街の香りの記憶の一つ。ロンドンの一等地で、ドーチェスターホテルもあるメイフェア。ロイヤルアーケードのあるメイフェア。王立芸術員のあるメイフェア。

 

トップ

トップノートで香るのは、レモンやグレープフルーツといった柑橘系。しかし、そこから放流される果実感は果肉のそれではなく、熟した皮質の繊維に染み付いた年季のようなものだ。

ミドル

しかしミドルに入り、老齢なトップノートは不思議な成長を見せる。ジャスミンやローズマリーといった甘さが加わることで、この香りは年季を重ねながら肌艶を若返らせてしまう。具体的に言えば、色味がましているのだ。それは繊維さからほとばしる果肉感に他ならない。果たしてこれは香りの成長なのか。それとも根本的な破滅の後で起こった再起なのか。いやはや更地にクリエイトされた新たな都市論なのだろうか。

ラスト

ラストノート。トップからミドルにかけて色づいた街は、ムスクやアンバーの温もりを得ることで人々の活気に満ち溢れる。ソーシャル・キャピタルの根底にあるはずの絆を、この街はその信頼の上で勝ち得ているのだ。

 

たとえこのフレグランスが革命前夜のわずかな都市形成に過ぎないとしても、そこには確かに一つの街が形成されるような物語が存在している。何よりも、このフレグランスのタイトルが、僕の生誕年と一緒なのだから、物語は未だに続いているのかもしれない。

 

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