YVES SAINT LAURENT「TUXED-LE VESTIAIRE DES PARDUMES」
トップノート : バイオレットリーフ、ベルガモット、コリアンダー
ミドルノート : ブラックペッパー、ローズ、バレリー産リリー
ラストノート : アンバーグリス、パチョリ、ヴァニラ
専業作家の書く小説ではなく、芸人(お笑いというカテゴライズではなく、文字通り芸を持った人間)の描く世界が好きな人はいないだろうか。あるいは、引き出しにしまってあった家族アルバムの写真に、カメラマンが撮った写真よりも感動を覚えたことはないだろうか(篠山紀信の挫折)。
トップ
このフレグランスのトップノートに香るのは、パチョリの強さだ。インドの熱帯地方を出自とするこのスパイスが、虫除けや漢方という機能的側面を持っているゆえのクロスオーバーされた属性に付与されるインパクトは、おそらくその適合度のラチチュードが恐ろしく狭い。
ミドル
ミドルノートに入り、アンバーグリスの甘さが、その強さで持ってファーストノートの強さを緩和させる。一歩間違えれば嗜好品としての失格の烙印を押されかねない危険な賭けに勝ったこのフレグランスに、私たちはミルキーでスパイシーという言葉(香り)を並置してみることしかできない。
ラスト
恐ろしいほどに強かった香りは、柔らかさの付香されたミドルノートから引き続き、恐ろしく静かにその寿命を終わらせる。
インドに行った人は、必ず好きか嫌いかに分かれるものだと良く聞くことがある。おそらくそれは、匂いと強く結びついた真実なのかもしれない。