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Dior「Miss Dior BLOOMING BOUQUET」

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Dior「Miss Dior BLOOMING BOUQUET」

トップノート : カラブリアンベルガモット

ミドルノート : ダマスクローズ

ラストノート : ホワイトムスク

 

「それ」を考え始めてから、もう何十年にもなる。先に言ってしまうが、「それ」が何なのかは未だにわかっていない。「それ」は私の奥深くにあり、「それ」は私の真実だと思っていた。だが、いくら探してもどうも見つかりそうにないのだ。2008年の発売以来、何度かの改調を経て2014年に登場したこのフレグランスは花々への讃歌であり、「それ」が何なのかを気づかせてくれる大切な香りだ。

 

トップ

トップノートでは、低音で響くようなフローラル感が漂う。ダマスクローズの甘いフローラル感にカラブリアンベルガモットの爽やかさが香るのだが、ただフレッシュというだけの言葉で片付けてしまうのはいただけない。このフレッシュ感は、どこか土っぽさが残っており、花は大地に根を張っているのだということを改めて知った私たちは、「それ」が大地に根付いていることに気づく。

ミドル

ミドルノートに入り、トップノートで芽を出した花々は鮮やかに成長し、芳醇な香りを威風堂々と香らせるその目に見えぬ姿形は、決して威張り散らすことなく軽やかに私たちの周りで踊り始める。

ラスト

ラストノートを包み込むホワイトムスクが、その踊りが決して息切れして終わったのではないことを健気な仕草で私たちに教えてくれる。大地の海を彷徨ったこのフレグランスは、砂の質感を残して静かに去っていく。

 

昔、大学時代に私が教えを請うていた50代男性の教授は、偉ぶることのない物腰とふくよかないでたちと子供っぽい社会性を身につけたとても素晴らしい人だったのだが、彼はある日、男子生徒たちに向かってこう言ったのを覚えている。「お前らな、何十年か経って大人になれると思ってるだろ。いいか、なにも変わらんぞ。」あれから十年以上経ったが、私は未だに「それ」を見つけることができていない。

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