1930年代 映画について

突貫勘太(1931)

更新日:

突貫勘太(1931)

監督

エドワード・サザーランド

キャスト

エディ・キャンター(エディ・シンプソン)、シャーロット・グリーンウッド(ミス・マーティン)、スペンサー・チャータース(A・B・クラーク)、バーバラ・ウィークス(ジョアン・クラーク)

 

ミュージカル映画を不健康だと認識している人の多くは、「物語の流れの中でプツッと音がなるようにして急に演者たちが踊り出すことへの違和感」というアレルギー反応をお持ちである。兎にも角にも、ミュージカル映画を見る上でこれを乗り越えなければ退屈だ。探偵物語をミステリーものとして見てしまう過ちを繰り返さないためにも、ミュージカルはそういうものだと割り切ってしまう方が都合が良い(松田優作が金田一耕助を演じた時の地獄を想像していただきたい)。だからといって、ミュージカルが映画的に優れていないということは全くない。いや、むしろ映画芸術は実にミュージカル映画に親和的だ。映画が声を初めて持った時、映画はミュージカルを選んだのだから。

 

この映画の冒頭、早速素晴らしいシーンが訪れる。パン工場で働く女性たちがタンクトップを着てせっせと働いているのだ。1930年代に訪れるヌーディティー思考を取り入れ、プレコード時代でありながら(だからこそだが)上手く女性のヌードを表現した作品でもあるこの映画では、女性のシルエットを強調するような衣装がよく出てくる。にしても、やはり肌を露出してパンを作る女性の集団というのは違和感でしかない。「集団」「コスチューム」という同調が、この映画の冒頭から違和感として強調されている。同調という名の違和感は、異世界へのトリガーである。つまり、これは音楽劇への誘いであり、その誘い方が実に見事なのだ。

 

そしてもう一つ。主人公であるエディ・キャンター(ジークフェルド一座の人気者であり、喜劇役者としてエノケンのお手本にもなっている。この映画の「勘太」は、日本でのエディ・キャンターの愛称である)がボスの詐欺師に命令され、女装をしてこの女の園(コーラス隊)に侵入するのだが、そこで見事なコスチュームチェンジが行われる。プールのレッスンをするコーラス隊の中で、水着のないエディ(エディ・キャンター)はプールの中へと体を投げ込んだまま浮かび上がらない。彼は、彼を助けるために飛び込んだ女教官の水着を水中で奪って水中から上がってくるのだ。なんと見事なコスチュームチェンジだろうか。

 

コスチュームチェンジは、映画の中で重要な役割を担う。例えば真利子監督の「ディストラクション・ベイビーズ」(2016)では、柳楽優弥と菅田将暉の見事なコスチュームチェンジ(暴力的な)が行われた後、二人の関係性が劇的に変化していく。

 

女教官の水着姿が映し出され、この荒々しいコスチュームチェンジがカメラの外である水中で行われた後、次のシーンでは女性用水着を身にまとったエディが出てくるというたった2カットで表現されてしまったこのシーケンスの見事さ。一瞬にして美しい女性美のシルエットを描いていたはずのこの衣装が、男性がその身を隠すためのコスチュームへと変化してしまうこの鮮やかさは実に素晴らしい。

 

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