1930年代 映画について

今晩は愛して頂戴ナ(1932)

更新日:

今晩は愛して頂戴ナ(1932)パラマウント

監督

ルーベン・マムーリアン

キャスト

モーリス・シュヴァリエ(モーリス・コーテリン)、ジャネット・マクドナルド(ジャネット女王)

 

ユナイテットステーツによる1932年のミュージカル映画。舞台はパリで、日常生活の音が音楽劇に変わっていき、モーリス(モーリス・シュヴァリエ)が歌いながら朝起きてからの身支度を済ませるという今となっては紋切り型の活劇から始まり、パンやティルトや移動といったカメラワークは、その紋切り型の活劇同様に引用映画「ラ・ラ・ランド」(2017)へとつながっていくわけだが、その的確な動きとカメラ位置によって、今見てもなおモダンに響いている。それはおそらく映画のファースト、セカンドショットで映し出される濡れたパリの街路に響く光の反射と、立ち上がる靄に拡散された美しい光の乱反射が共鳴したものだと考えている偽りのロマンチストは僕だけだろうか。

 

さて、この映画の素晴らしさは何と言っても馬に乗るジャネット・マクドナルドではないだろうか。とにかく登場シーンからして素晴らしい。お城へと取り立てに向かった仕立て屋のモーリスの前に、木陰から歌を歌いながら颯爽と馬に乗って現れるジャネット(ジャネット・マクドナルド)は痛快だし、物語終盤でモーリスの乗った汽車を馬に乗って追いかけ、威風堂々と汽車の前に立ちはだかるジェネットの姿を下から煽るようにして完璧に捉えてしまったこのシーケンスは、はるか未来に「JAPAN」という小国で撮影されることなど知る由もないマムーリアンのことなどこちらも全く知らなかたであろう「101回目のプロポーズ」製作陣が撮影した、武田鉄矢の女々しいシーケンスと生物学的に、かつ生態学的に、かつ乱暴なフェミニストのマニフェストばりに「女性は出産をする生き物なのだから、男よりも痛みには強い」という反転的な構図をなしている。

 

それと、バックステージもののミュージカル映画にはつきものの階段なのだが、バックステージものではないこの映画には階段を使った重要なシーケンスが存在する。その階段を上り下りするのは美しいコスチュームを見にまとった女性ではなく、それを仕立てるモーリス。お城に到着した彼は、城内の中にある階段を駆け上がり、行き止まりに当たった後また降る。すると先ほどまでは閑散としていたホールに、立派な衣装を身につけた人々が入ってくる。全く同じ空間にもかかわらず、階段の上り下りによって見事に物語は転換する。この一連のシーケンスは、本当に滑らかで美しい。

と、これだけ素晴らしい映画なのだから、ぜひ一度は見ていただきたい。そして何より、ジャネットがモーリスの正体を知った後、ずっと取り憑かれたように「テーラー」と呟くのが、おぞましい呪文のようにしつこくて頭から離れない。

yuyasaku-blog-pc

yuyasaku-blog-pc

-1930年代, 映画について

Copyright© 寂寥と官能の図像史 , 2024 All Rights Reserved Powered by STINGER.