1930年代 映画について

「真珠の首飾り」(1936)

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「真珠の首飾り」(1936)

監督

フランク・ボーゼージ

キャスト

マレーネ・ディートリッヒ(マデリン)、ゲイリー・クーパー(トム)、ジョン・ハリデイ(カルロス)、ウィリアム・フローリー(ギブソン)

 

マレーネ・ディートリッヒがスタンバーグから離れて初めて撮られた作品。監督はフランク・ホセージで、製作はエルンスト・ルビッチ。衣装はトラヴィス・バントン。

 

煙草を喫む姿も、美しい脚を披露することも、流し目をすることも、ディートリッヒはもう嫌だったのだ。「私、普通の女優に戻ります!」なんてことを周りに吹聴していたはずだ。女優マレーネ・ディートリッヒという作品を創ったのは確かにスタンバーグだった。しかし、アメリカの若者はその完璧な女優に様々な俗称を与え、生きた「ヴォーグ」誌というイメージを創ってしまった。だからこそ、この頃のディートリッヒは演じることを一番頑張ろうとしていたのではないだろうか。勝手な想像だが。

 

この映画の素晴らしさは、美しい光の反射にある。とにかくライティングが素晴らしい。その素晴らしい光は、トラヴィス・バントンが演出した毛皮やオーガンジーというディートリッヒを纏っている素材たちの絶妙な反射率によるものでもある(いうまでもなく、トラヴィス・バントンにとってもスタンバーグと離れてディートリッヒにコスチューミングことは極めて重要だ)。

夕食を共にするためマデリン(ディートリッヒ)のいるホテルを訪れたトム(ゲイリー・クーパー)。彼を慌てて迎えようと走ったマデリンの纏っている、あまりにも裾長なオーガンジーのナイトウェアが空中で鮮やかに波を打つ。その美しさにあっけにとられていると、そこから息つく暇もなく美しいシーケンスが続き、あっという間に映画史上最も美しいキスシーンを迎える。このキスシーンのライティングも素晴らしい。二人の後ろから当てられたライトは、彼らのシルエットを柔らかく描き出し、こんなにロマンチックな男女を(言わずもがな美男美女を)、なんの嫉妬も抱かずにただひたすらに美しいと思ってしまう自分がいることにまず驚いてしまう(街中でこんなことをしている若者を見たら、×××××してやりたい気分になるのに)。

 

ただ、こんなことを言う人はいないと思うし、この意見がいずれ変わるであろうこともあり得るのだが、どうしてもこの映画でのディートリッヒの頑張りには少しだけ違和感というか寒さというか、ちょっとこちらが恥ずかしくなってしまうようなところがある。同年に撮られたガルボの「椿姫」(1936)も、ガルボにはあまりにも似合わない役柄のせいでこれと同じような感覚を抱いた。この二つの作品が同時期だったことは、果たして偶然なのだろうかと思う日々だ。

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